「忘れないと誓ったぼくがいた」(平山瑞穂)

読後、大きな喪失感を味わいました。

「忘れないと誓ったぼくがいた」
(平山瑞穂)新潮文庫

平凡な高校3年生・葉山タカシが
恋に落ちた少女・織部あずさには
ある秘密があった。
彼女には存在している時間と
消失している期間が
交互に訪れるのだという。
そして消失期間が
しだいに長くなり、
いずれは完全に
消滅するのだと…。

中学生に薦めたい本を探して、
現代作家の作品を
手当たり次第に乱読していた頃に
出会った一冊です。
途中まで甘ったるい
高校生の恋愛小説で、
「しまった!間違えた!」と
思ったのですが、
中盤以降はぐいぐい引き込まれ…、
そして最後10ページのエピローグで
号泣してしまいました。
いいですね、現代の若い人たちは。
青春期にこんな素敵な小説に
出会えるのですから。

この大切な人が「消える」設定は、
ファンタジー小説、SF小説で、
これまでにもありました。
本作品がそれらと違って
画期的であるのは、
周囲の人間の記憶からも
「消え」てしまうことです。

一人の人間がこの世から消え去ることは
とても悲しいことです。
しかし、その人の記憶、そして
存在していた痕跡が失われることは、
それ以上に切ないものなのです。
自分の存在を
忘れ去られた世界を想像すると、
背筋が寒くなるような
恐ろしさを感じます。

あずさに会った誰もが、
数時間のうちに
彼女についての記憶を
失ってしまいます。
彼女からそれを打ち明けられた
タカシもはじめは
本気にしていなかったのですが、
周囲の人々が
みな彼女の存在を覚えていないこと、
そして自分も彼女のことを
忘れかけている事実に気づき、
愕然とするのです。

忘れないように
必死に努力するタカシのけなげな姿。
感情をあらわにしないあずさの、
心の奥に秘められた激しい思い。
ファンタジーは
単なる舞台設定に過ぎません。
本作品は純愛小説なのです。

私のようなおじさんが
読むべき小説でないのは確かです。
細かい設定の甘さ等、
つっこみどころも
たくさん抱えています。
日本語も軽く、
文芸的かといわれると躊躇もします。
でも、いいものはやっぱりいいのです。
私などは感情移入してしまい、
読後、主人公と同じレベルで
大きな喪失感を味わいました。
これを読まずして現代作家の作品は
語れないのではないかとさえ
思えるのです。

10年ほど前に読んで以来、
誰かに紹介したくて
うずうずしていたのですが…、
2015年には映画化されてしまいました。
あずさ役の女優(早見あかり)は
イメージに近いと思います。

(2020.1.6)

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